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成田屋通信
2005年10月26日
入院日記17

入院日記が更新されました。今回の再入院の検査結果が出る時点でのお話です。
ホームページの発表が遅れていますので、この9月の時点ではPCRの高感度の検査で陽性でしたが、治療の甲斐があり、お陰様で10月の時点では陰性になりました。
 いよいよ検査の結果が出る。
 海老蔵は公文協の襲名公演の為いないが、私と家内、そして娘が病院の応接間に控えていると、部長、主任、担当の先生方が説明の為の書類を抱えて入って来られた。
 どんな結果であろうと覚悟は出来ているので、私自身はリラックスしているつもりだが、どこか緊張はしている。家内と娘は結果が心配なのだろう。ソファーに腰を浅く掛け、医師の言葉を一言も聞き漏らすまいとの体勢をとっている。
 「やはり陽性です。」
 覚悟はしているとはいえ、やはり重い言葉として耳の奥に突き刺さる。
 家族も落胆と、さらなる緊張に身を強張らせているようだ。
 「これからの治療方針ですが、亜ヒ酸、薬品名トリセノックスを1日1時間ずつ点滴で最大で60日投与します。これによって寛解に導入させ、経過を見ながら次の治療に進みます。病気に攻められたのだから、逆にこちらから攻め込んで、完治を勝ち取るための積極的治療をして、勝利を勝ち取りたいと思います。」
 「どんなことをするのですか?」
 「自家移植です。経過を見て行ないたいと思います。」
 移植には自家移植と同種移植の二つがあり、時々テレビで宣伝している臍帯血移植は、同種移植の範疇に入る。
 自家移植とは、白血病の患者に対し寛解導入療法によって骨髄の中の白血病の因子を陰性にした上で、時期を見て薬によって血液中に幹細胞を出させてから採血する。
 この血液を冷凍保存して、良いと思われる時期に、抗がん剤で完全な陰性にした患者に患者自身の血液を再び戻すのである。これを末梢血幹細胞移植といい、一般的に云われる骨髄移植とは異なるものである。
 この際、採取した血液が完全な陰性であり、移植のときに受け入れる患者の体も完全な陰性でなければならないとのことであった。
 同種移植は患者本人ではなく、骨髄液の型の合う方の幹細胞をもらうものである。
 現在ドナー登録をしてくださる方は増えているが、需要には追い付かない状況で、骨髄の型の合う方を見つけるのが大変であり、時間もかかる。また、移植後の拒絶反応を克服するのにも時間がかかるとのことであった。
 私自身白血病になるまで、昔の臓器移植のドナーカードを持ったことはあったが、骨髄移植に対して無関心であったし、骨髄移植という語感に大手術を連想していた。
 実際はそんな大手術ではなく、医師の話ではドナーの方は3日ほど入院してもらうだけで、内視鏡やメスなどは使わず、盲腸の手術より簡単で安全だということだ。
 だが、ドナーの方にいよいよ提供を依頼して説明すると、二の足を踏む方も多いようである。
 当然のことだと思う。自分の健康な体に注射針を刺し、痛い思いまでして、人を助ける。もし自分がその立場になったら、素直に提供者になれるか。
 恐らく、「2、3日考えさせてください」と、返事をするに違いない。
 私は今、人様に骨髄液を提供できるどころか、もしかすると提供して頂かなければならない立場である。
 そのような立場で意見を述べるのは、僭越とのお叱りを受けるかもしれないが、私なりの所見を述べる。
 今の日本は、スポンサー的思考が主流だと思う。即ち、提供する代わりにそれなりの見返りを求める。商いの鉄則であり当然の経済活動である。
 しかし、これからはボランティア的思考、即ち、無償の奉仕の精神を養うことが大切だ。今でもロータリークラブなど多くの団体や組織が、この理念を掲げて活動をしておられる。
 私も是非、「私でお役に立つ事なら喜んで」と、素直にこの言葉が言える人間になりたいと思う。
 まだ、どの移植をするか決定はしていない。治療の経過や成果をみて、どういう方向の治療になるか医師の判断によるが、医師の薦める自家移植の治療を承諾した。
 願わくば、人様に迷惑をかける同種移植になるより、自家移植に進めるように祈っている。