入院日記が更新されました。引き続き昨年5月から、学生時代までの回想のお話です。
3日間、時間を区切って投与する抗がん剤と、5日間24時間投与する抗がん剤の2種類と、余病を抑える薬が下がっている点滴台が友達となった。点滴をしているからといって寝たきりとなっている訳ではない。検査で病院の中を車椅子で動きまわる時、必ず点滴台を連れて歩く。私は連れているつもりだが、周りの見る目では連れられているのだろう。
それでも周りの患者さん方より豪華に下がっている点滴台に「どうだい、立派だろう」と、変な自慢心が湧いてくる。
体調が安定して来たので、特効薬のATRA(ベサノイド)に再びチャレンジしたところ、今度は肺の反応も無く、使えることになった。
特効薬とは何か、またどう効くのか、さっぱり分からないので聞いてみた。
血液内の白血球は先ず、骨髄の中で幹細胞として生まれる。この細胞が骨髄の中で成長し、骨髄芽球→前骨髄球→骨髄球→後骨髄球となる。ここまで成熟すると、血液の中へ出て来て、杆状核球→分葉核球となり、白血球として外部から侵入した外敵と戦い、わたし達の体を守ってくれ、1週間位で死滅してゆく。誠に健気な存在なのだ。ところが私の白血病の場合、遺伝子の異常によって、前骨髄球の時点で成長が止まり、未熟のまま増殖してしまう。これが白血病の細胞である。骨髄の中で20パーセントを越えると、白血病と認定される。
この異常細胞が血液の中に出て来て、自分自身の仲間に悪事を働く。ベサノイドやトリセノックスという特効薬は、成熟しなくなった前骨髄球に働き、成長を促して通常の過程を辿らせ、分葉球まで成熟させて死滅させる。特効薬とはこんな働きをしてくれる。
抗がん剤を投与して1、2週間で白血球の一種、好中球がゼロになる。赤血球も血小板も同時に少なくなるので、輸血が必要になる。
昔、父が癌の手術を受けた時、今は全くないが、当時売血といって血を売って生活する人々がいて、その血が問題になっていた。献血をすると、手術の時良い血を使ってもらえるとの話しがあったので、友達に献血を頼んだら、5人の友達が献血に付き合ってくれた。
手続きを済ませ、献血の部屋に入って行くと、西部劇に出てくる銀行の窓口のような窓があり、そこに腕をいれた。
映画『ローマの休日』に出てくる名シーンに、オードリー・ヘップバーン扮する王女と新聞記者役のグレゴリー・ペッグが、真実の口に腕を入れて怖がる場面がある。
私もローマに行った時、同じレリーフの真ん中にある穴に腕を入れたが、結構気持ち悪かった。
献血の時は、向こうで何をやっているのか見えるので恐怖はなかったが、視界に注射針がはいってきた。私の目には、この注射針が存外太く見えた。こんな太い針ではたまらないと思い、
「あのぉー、もう少し細い針はないですか?もう少し細いのでお願いできませんか。」
「そうですか、でもそんなに太くありませんよ。大丈夫です。」
ブツーッ、ビンの中に鮮血がサァーと広がった。みるみる内に血が溜まっていく。
「大量出血だ。」
見ているだけで貧血を起こしそうだ。
「牛乳ビン1本分位です。全く問題はありません。ただ、今日はのんびりしてください。ハイ、終わりました。」と、献血カードをもらう。
このカードを持っていれば、輸血が必要な時、優先的に受ける事が出来るそうだ。
少しふらつくような気もしたが、献血のお礼に友達を焼肉屋に連れて行き、大いに盛り上がって麻雀をやることになり、その日は徹夜麻雀になってしまった。