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成田屋通信
2005年09月08日
入院日記4

入院日記が更新されました。今回は少し痛そうなお話です。  8月30日、公文協西コース『十一代目市川海老蔵襲名公演』が松戸で初日を迎えた。
 本来ならば、今頃車に乗って初日の緊張感に浸っていただろうに、今は骨髄穿刺の緊張感に包まれている。
 同時進行で映し出される映画の1シーンのように、それぞれの自分が交互に現われ、目的地に向かって突き進んでゆく。
 そんな思いが風のように通り過ぎてゆき、気が付くと目の前は病院の白い壁である。現実はやはり厳しい。「フーッ」と息が洩れる。

 骨髄穿刺は、白血病の検査には欠かせない検査で、骨の中にある骨髄液を細い針を刺して取り出し、PCRという高感度の検査で白血球の元になる細胞を調べる。癌化してなければ陰性、異常があれば陽性となる。
 ステンレス製のキャスター付き医療器具が、廊下からガラガラと音を響かせながら運ばれて来る。骨髄穿刺には慣れっこになっているのだが、近付いて来る気配に久しぶりに緊張感を覚えた。というのも、骨髄穿刺には二つの方法がある。胸の胸骨から採取するのと、腰の腸骨から取る方法がある。
 「腰の骨なのに腸とはこれ如何に?」などと、冗談を言っている場合ではない。前の病院では、「どちらにしますか」と聞かれ、やはり目の前で針を胸に刺されるより、見えない腰の方が怖くなさそうだし、楽だろうと思い腰から採取してもらった。
 しかし、今度の病院では余程の理由が無い限り、腰より胸骨からの方が良いという。理由は、胸骨の方が活発に幹細胞を作り、量的にも多く採れるが、腰の方は老化すると量が少なくなり取り難い、とのこと。
 「老化」この言葉が引っ掛かり「腰からにしてください」と咽喉まで出掛かった言葉を押し止め、さて、どちらにしたものかと迷った。
 腰と胸では結果が多少違うのではないか。ひょっとして胸の方で採取すれば、結果が良いかも知れない。
 恐怖心と、結果の良さへの期待を天秤にかけ、淡い期待と、清水の舞台から飛び降りる覚悟を綯い交ぜにした気持ちで、「胸からお願いします」と答えた。実は後で聞いたら、どこで採取しても結果に変わりはないとのことであったが。
 仰向けになり、胸を開く。イソジンで胸骨の上の方を消毒し、布を顔から被せ、胸の処だけ開ける。先ず皮膚の麻酔を施し、次に「骨の表面を麻酔しますよ」と、表面麻酔がされる。
 やがて、麻酔が効いてくると、「では、始めますよ」と骨に針 を刺され、骨髄液を採取される。後は止血に一時間位寝ている。
 骨髄穿刺の評論家なんかにはなりたくないが、腰と胸の両方を経験した者として、一言申し上げると、どちらも大差は無い。
 ただ、皮膚、表面麻酔、穿刺は、腰より胸の方が楽のようだ。
 腰から骨髄液を吸い採るときは、竹に入った水羊羹を口にしてヌー、スポッと飲み込んだような感じであった。一方胸のほうは、胸を締め付けられるような痛みが少し走る。医師にその痛さを告げると、
「それは若い骨髄液が多いので、多く採取できたから痛いのです。少ないと痛くない。つまり若いから痛いのです。」との説明。
 若いから痛い。これは使えると思いながら納得した。
 PCRの結果は4、5日かかるが、顕微鏡等でする検査は、夕方に出るので報告すると検体を持ち去った。