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成田屋通信
2002年10月07日
團十郎より 「上意討ち」について

團十郎より九月の「上意討ち」についてのお話です。  皆様、ご無沙汰いたしました。
 8月は休演させて頂いていたので、書き込みが出来ると思っていましたが、国立劇場で開催された若手の『歌舞伎会・稚魚の会』の稽古、その後は九月新橋演舞場で上演された「上意討ち」の稽古におわれ、書き込みが出来ず、申し訳ありませんでした。 
 さて、9月上演させて頂いた『鶴賀松千歳泰平-上意討ち』に対して、本当に数多くのメールやお手紙を頂きまして、誠にありがとうございました。色々のご意見を面白く拝見し、今後の役に立たせていただきたく思っております。
 ご意見の中でも多かったのは、大詰の扮装を大時代にした点で、賛否両論がありました。
 勿論、今回はじめて御覧いただいた皆様は、それほど不思議とは、思われなかったようですが、前回の自主公演を御覧いただいた皆様からは、前回の方が良かったという意見と、歌舞伎らしく面白く見た等々のご意見を頂きました。
 私も、今回のやり方に決めるのには、随分悩みましたが、衣裳やかつらを注文して出来上がる日数の関係で、8月9日に大時代にする決心をして注文を出しました。私とすると、理屈を超えた世界が歌舞伎にはある、ことに市川家に伝わる荒事には、怒りを表現する方法として、今まで普通の顔であった人間が急に隈を取り、舞台を暴れ回ったりします。
 漫画の世界でも、キン肉マンは火事場のくそ力を発揮するとカッコよくなったり、ドラゴンボールではスーパーサイヤ人に変身したりする。若い世代の方々には変身に対して寛大な感覚があるのではと思い、思い切った冒険をしたかったのです。
 稽古に入ると、思い切った飛躍が色々の問題を呼び、悪戦苦闘して今回の形になりました。無理なところもあり、今後改良の余地があると思っています。又、狂言全体でも山場の作り方で、再考しなければならない箇所があると思っています。皆様のお力とご支持によって再演の機会があれば、是非練り上げたいと存じております。 十二代目市川團十郎